私は、元々、脳卒中や頭部外傷といった
救急医療を中心に、従事してきました。
ただ、2011年に開業してからは、日々の生活の健康管理、
健康への西洋医学の関わり方などを考えるようになり、
さらに昨年からは、高濃度ビタミン点滴を通して
がん患者さんとの関わりも少しずつ持つようになってきております。

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がん患者さんは、特に末期のがん患者さんは、
もちろん生き残るために様々なことを考えます。
自分の命が、かかった時の情報収集能力はものすごいものです。
その情報収集で浮き彫りにされるのが、
末期がん患者さんへの、現代西洋医学の無力さです。
もちろん西洋医学は、極めて高度な叡智の塊です。
しかし、瀬戸際まで追い込まれた命に対して無力であるばかりか、
それが、苦しめ、現実的に最後のとどめを
不本意にもさしてしまうことも場合によってはあります。
その一方、西洋医学以外の、
様々な治療法を試して、生還する患者さんもおります。

私は、第三者的にそのような現場を見つめる中で、
世の中の主流として、西洋医学のみ行うことが、善。
それ以外の行為を行うことは、悪。
というような宗教にも近い二元論に包まれた、
現場の状況を目の当たりにしております。
当院にかかってきている末期のがん患者さんで、
化学療法を選択しないと主治医に告げて以来、
とても冷たい態度を主治医からうけ
今後の相談をほとんど、できなくなった方や、
あからさまに保険外診療に関して、裏付けのない批判をしたり、
「そのような治療をするのなら、
当院は「化学療法の治療成績」を集める施設であり、
保険外診療と併用すると治療成績のデータとして取れなくなる。
そのため当院では治療できない。」など、
死に追い込まれた患者さんが絶望してしまうような言葉を
浴びせられた話を、たまにではなく、頻回に耳にします。
末期がん患者さんに化学療法を使用する理由は、
「それが学会が定めたガイドライン」だから。
さらに、そのガイドラインとは、
化学療法を使用した患者群が、
化学療法を使用しなかった患者群より、
生命予後(生きている時間)が「数ヶ月」伸びた。
これは、効果があるという「有意差」があり
「エビデンス」に基づいた治療方針だから、
という理由のガイドライン。
例えばそれに近いガイドラインが、多く存在し、
それに基づいて、病院の現場では
「機械的」に治療している場合が多いと考えます。
生命予後が数ヶ月伸びるだけなら、
その間、化学療法の副作用の苦しみに苛まされるくらいなら、
そもそも、化学療法をしないという選択が、なぜダメなのでしょうか?
患者さんは、化学療法を拒否しても、
痛みをとるようなモルヒネ投与や、腹水を抜くというような処置、
その他、西洋医学的な処置は、望んでいる場合が多いのです。
化学療法を拒否したから、あなたは、私の患者ではないと
極端になってしまう原因はどこになるのでしょうか?
それは、つまり、西洋医学の医師が、
「証明されたデータ」の奴隷となり、
患者さんの「魂」とまるで向き合っていない現実があるのではないでしょうか?
どんなに医学的知識が豊富で、データに詳しく、
それに基づいて加療していると胸をはっても
「証明されたデータ」を信仰し、
裸で患者さんの魂と向き合わない医師は、医師ではなく単なる奴隷なのです。

「証明されたデータ」の信仰には、ある悲劇的な落とし穴が存在します。
信仰とはつまり、信じていないものを否定するということです。
「証明されていないデータ」は奴隷医師にとって悪、以外の何物でもないのです。
排除の対象です。

ここで、「証明されたデータ」のみを信仰し、
社会の選択が悲劇的になった例をご紹介します。
藻谷浩介さんの「デフレの正体」文庫版p232より引用です。
以下引用
水俣病の原因は、工場から垂れ流された廃液の中の有機水銀化合物だったという事実は、今では社会的に広く認知されています。ですが当時そのことは、学問的に証明できていませんでした。そこをタテに、つまり「水銀が奇病の原因とは論証できていない」という口実で、当時の通産省は廃液への規制をなかなか行わず、その間も被害が拡大したのです。ところが実際に廃液垂れ流しを止めてみると、水俣病の新規発生も止まりました。つまり、有機水銀化合物が水俣病を起こすということは「学問的には論証できなかった」のですけれども、「有機水銀化合物がなければ水俣病は起きない」という反証は成立したわけです。このように、実際の世の中には、論証を持たずとも反証を検証して実行に移すべき政策があります。そこを認めないでぐずぐず論証を待っていると、ヘタをすると人の命までも失われてしまう。
以上引用

まず前提として、生命機能のほとんどは、
まだ解明されていない、
証明が、なされていないという立場から様々な思考を始めると、
判断が教科書的ではなく、現場の判断になってくるように思われます。
「証明されている」というデータであっても、
「ある限定された条件、思考世界」のなかで証明されているデータなのです。
その上で、考えると、西洋医学は、
非常に有用な戦略の礎になりえますし「手段」になり得ます。
西洋医学が「手段」から「信仰の対象」に、すり代わってしまった時、
多くの悲劇が起こります。
まず、私達医師は、生身の生命である人間に対するとき、
その立ち位置にたえず戻り、
思考を開始する習慣を研修時代から身につけるべきでしょう。
信仰する宗教では、なく科学の立場を謙虚に持つということは、
まず、その立場を思い出し、
「反証のないことだけを暫定的に信じる、
明確に反証のあることは口にしないようにする」
←「デフレの正体」より再度引用
というような態度が必要と考えます。

研修医時代、大先輩の医師から頻回に言われた
「病を診るな、人間を診ろ。」という言葉の意味が、
この歳になってやっと分かってきている気がします。

「ガイドライン」通りにしているから裁判所に訴えられることがない。
と胸を張る思考を失った奴隷状態から早々に脱する気概が、私達医師には、必要です。

保険外診療の、〇〇治療法は、効果的と「証明」されてはいない。
しかし、〇〇治療法をしなければ、がんは克服できない。
という反証が成立した場合、あるいは成立する可能性がある場合、
私はその治療法を選択の一つに加える事は、なんら責められることではないと考えます。
ただその場合、その効果を証明されていない治療法を提供する医療者側には、
特に留意しなければいけない点が、2つあると私は考えます。
それはまず治療の前提として、
①その証明されていない治療法には副作用が極端にすくないこと、
もう一つ、
②全てを捨ててでも助かりたい患者に対してその治療法の「価格」
に特に留意する必要性を感じます。
このような、弱い立場の人間へのお金のやり取りは、
悪徳業者が入り込みやすい部分のため、
価格と副作用の少なさに関しては、
きちんと社会的な批判にさらされるべきだと考えます。

それを踏まえ、末期がん患者さんなどへ
様々な医療「手段」を提供できる土壌になってくると、
保険診療そのものの質もそれに伴い向上すると考えます。

全て、今の医療現場を歪めていることは
「証明されたデータ」を信仰するという、
表面上、科学的な様相で、
内実は、新興宗教レベルの低俗宗教に
盲信奴隷化している医療者集団、
それを舌なめずりして、みている利権集団の構図という認識で、
大きくは外れてはいないでしょう。

そこから、脱却するには、大きな革命は不要です。

医療者側にしても、患者側にしても一人ひとりが、
目を覚まし、思考を再開すれば、
安易にその構図から脱却可能なのです。

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